体調が悪いのに出社してくる従業員への対応

従業員の健康管理は企業が安全配慮義務を履行する上でも重要なテーマとなっています。体調不良で欠勤や休職を繰り返すような者がいる一方で、体調が悪いのに大丈夫だからと言って出社してくる従業員も一定数存在します。

会社としては病状を悪化させることになったり、場合によっては病気が他の従業員にうつることも懸念され、対応に困ったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、そのような体調不良にも関わらず、出社してくる従業員への対応について解説しましょう。

1労働安全衛生法による就業制限
そもそも労働安全衛生法において、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。」と定められています。 ここで、厚生労働省令で定めるものとは、以下の3つを言います。なお、①については伝染予防の措置をした場合、この限りでないとされています。

①病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者
②心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者
③前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者

また、事業者はこの規定により就業を禁止しようとするときは、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聞かなければならないことになっています。

2、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による就業制限
労働安全衛生法の他の法令としては、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症予防法という)というものがあり、都道府県知事は一類感染症の患者及び二類感染症、三類感染症または新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、その感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者またはその保護者に対し、届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができるとされています。ちなみに実務上相談のあるインフルエンザ、ノロウィルス(感染性胃腸炎)、O-157(腸管出血性大腸菌感染症)は以下の分類になります。

インフルエンザとノロウィルス(感染性胃腸炎)・・・五類感染症
O-157(腸管出血性大腸菌感染症)・・・三類感染症

3、従業員への対応と賃金の取扱い
それでは上記の就業制限をふまえ、会社としてどのような対応が求められるのでしょうか?

まず会社として押さえておくべきポイントとして、病気を抱えたまま出社しないように労務提供の受領を断ったり、会社から自宅待機命令を出すことができるかという論点があります。これについては、従業員は就労した分について賃金を請求する権利を有していますが、就労請求権、つまり働かせて欲しいという権利は持っていないとされています。したがって、会社としては労務提供の受領を断ることが可能です。次に自宅待機を命じることについては、会社にはその従業員だけでなく他の従業員の健康管理を行わなければならないという合理的な理由があることから、会社は自宅待機命令を出すことができると考えられます。

そして、自宅待機命令の際の賃金の取扱いについては、まず労働安全衛生法・感染症予防法に基づく就業制限については、会社に帰責事由がないことから、賃金、休業手当を支払う必要はないということになります。次に法令に基づくものではなく会社の判断で休業させる場合については、労働基準法の「使用者の責めに帰すべき事由」による休業となることから、会社としては最低でも休業手当の支払が必要となります。

近年、メンタル不調にもかかわらず無理をして出社してくる従業員も少なくありません。そのため、会社としては従業員の様子を確認し、医師(主治医・産業医)の診断を受けさせたり、休ませるなど早めに対応をとることが望まれます。

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