自動化が実現する未来②

機械化・自動化による徹底的な省人化
自動化の進捗によって、未来の日本経済の姿はガラッと変わるだろう。何より期待されるのは省人化だ。労働に対する需要が減少していくことに対する世の中の捉え方は、その時々の経済環境によって変わってくる。つまり、需要に比して労働力が豊富にあり、失業率が高止まりしている状況下であれば、自動化の進展がさらなる失業を生んでしまう。一方で、失業率が低位で安定しており、恒常的に人手不足の状況にある経済構造下であれば、失業の発生という副作用なしの省人化による生産性向上は経済全体の効率を大きく高めることになる。

現在の日本の労働市場を顧みれば、日本経済が後者の状況にあることは明確である。少子高齢化が世界に先駆けて進む日本は、省人化のメリットをフルに活用できる状況になっている。労働供給制約を迎える日本社会にとって、いかにして少ない人手で高い成果を上げるかという点が最も緊急性が高い課題になる。省人化が進めば、労働者を取り巻く労働条件は改善するだろう。

まず、現代人を苦しめている長時間労働から人を解放することにつながる。自動化により人が担うタスクが減少していくことで、同じ生産量の仕事について、例えば従来10時間かかっていた仕事を6時間で済ませることができるようになる。そうなれば、これまで長時間の仕事を強いられていた人も就業時間内に仕事を切り上げることができるようになり、労働収入を損なわずに短時間労働への移行を望む人はその願いが叶えられる環境が実現する。

省人化は賃金にも影響を与える。これまで10人で行っていた仕事が8人でできるようになれば、従業員に支払う賃金を従来の水準の1.25倍に増や すことは理論的に可能である。もちろん、ロボットなど資本を導入する際には資本コストが発生するし、生産性上昇の一部は企業や経営者の利益として計上されることになるだろうが、一定の割合が雇用者報酬として分配され、労働者の賃金上昇につながるはずである。

無理のない働き方が浸透し、労働参加が拡大する
機械化・自動化による効果は省人化にとどまらない。これまで労働者が行っていた業務をロボットやシステムなどに任せることによって、労働者の心身の負荷軽減にもつながる。IoTの普及などから、現場に入らずに遠隔で行う業務管理も広がっていくとみられる。労働者の負荷が軽減していけば、これまで労働に参加できなかったような人たちが労働市場に戻ってくる動きも出てくるだろう。

例えば、現在、ドライバーが担っている荷役の業務について、自動フォークリフトや自動搬送機が普及することで、ドライバーは重い荷物の積み下ろし作業から解放されることになる。住宅建設の現場では資材の運搬や建具の取り付けなどを機械化し、様々なタスクを無理のない仕事にしていくことができれば、高齢化が進む建設作業員の人手不足の緩和にもつながる。

これまで人が行っていたきつい仕事をロボットに任せることができれば、労働者の身体的な負荷は大きく下がるはずだ。

機械化による精神的な負荷軽減も期待される。働き方改革の進展に伴う労働時間の縮減によって、多くの現場で業務時間内にこなさなければならない業務の密度は上昇している。同じ業務時間であっても時間内にこなさなければならない業務が増えれば、おのずと労働者の精神的なストレスは高まるが、自動化はその解決策として現実味が増している。

例えば、これまでレジ業務の現場では従業員の業務の遅速によって顧客からのクレームが発生することに悩まされていたというが、無人レジの導入によって手のあいた従業員が顧客が困った時のアドバイザーになることでそういった悩みが解消されたという。旧来の業務プロセスを新しいものに変えていくなかで、心身ともに無理のない働き方が浸透していくことが期待される。

属人化の解消も期待される効果の1つとなる。多くの 現 場では、いまだに熟 練した労働者がブラックボックスの中で属人的に業務を行っているケースが見受けられる。

例えば、飲食店や宿泊施設であれば、従業員の希望を巧みに調整し、最適化されたシフトを作ることができる熟練した従業員が重宝される。あるいは、介護現場では経験年数の長い介護職員が熟練の業によって利用者の排泄のタイミングを推し量ったり、バイタルデータから病気の兆候を見つけたりしている。

人手不足が深刻化する未来において、こうした労働者の熟練に頼る仕事の仕方は限界を迎えるだろう。デジタル化が進みAIなどによって業務プロセスが適正化されれば、一部のスキルが高い職員に依存せず、安定的に高い質のサービスを提供することができる。

 

こうした取り組みが普及すれば、誰にも負けない高いスキルを有する人や、心身ともに負荷の高い仕事を許容できる人ではなくても、誰もが働きたい時に無理なく働けるようになるだろう。これまで働けなかった人の労働参加が拡大すれば、さらなる就業率の上昇も見込めることになる。

対人への流れが加速
仕事が機械化・自動化することによって、これまで人が担っていたタスクがロボットなどにシフトしていく。一方で、AIやロボットによる代替が不可能な業務も数多く残り、残った業務に人は集中することになると考えられる。

まず、人と直接触れ合う対人業務は相対的に必要なタスクとして残りやすい業務となる。医療や介護の分野では、これまで多くの時間を割いていた日々の記録業務や周辺的な雑務から解放され、利用者や患者との1対1の会話に多くの時間を割くことができるようになるだろう。結果的に医療・介護の質の向上につながっていく。

接客・販売業務も同様に対物業務が減少することで、本来業務である顧客とのコミュニケーションの時間が増えていく。こうした接客の領域の仕事に就いている人はもともと利用者とのふれあいの中にやりがいを見出している人も多く、雑務から解放されることでモチベーションを高めリテンションを促す要素にもなる。

また、ロボットやシステムを管理する業務も増えていくと見込まれる。物流倉庫では現場で作業をする人員の一部について、管制室などから遠隔でモニタリングする人へ需要がシフトしていくだろう。建設現場ではアナログで図面などの書類を見ながら行っていた作業が、タブレット端末などを利用してBIM上で操作しながら資材等を管理する形に変わる。

医療・介護現場の記録業務も紙に記載していたものが、音声入力技術の進歩などによってデジタルに管理することができるようになる。こうしたシステムムを構築し、管理・運用する業務は増えていく。

(出展:WorksReport2023)


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