自動化が実現する未来③

労働供給制約に直面する将来において、各業界で機械化・自動化を進めていくことは不可欠となる。各業界がデジタル技術を活用し、労働生産性を向上させていくためにどのような取り組みが必要だろうか。「自動化の世紀」を迎えようとしている日本経済において、これからどのように進んでいくのか、また進んでいくべきかを考えてみよう。

労働市場からの圧力を活かす
市場原理を前提とすれば、人が決定的に足りなくなる将来においては、労働市場からの強いプレッシャーを受ける形で、企業は熾烈な競争に自然に巻き込まれるようになる。それと同時に、企業が変わらなければならないという市場からの要請を適切に発露させる環境も大切になるだろう。

円滑な労働移動を促す取り組みは重要である。労働移動というとリストラを伴うものと想定されがちであるが、労働供給制約社会においてはむしろ労働条件のよい職場を積極的に選ぶという側面の強い労働者優位の移動が活発化するだろう。そのためには企業側からの適切な情報公開は欠かせない。ある企業の職場において残業がどの程度発生しているのか、給与は勤続年数に応じて増えることが見込めるのか、離職率はどれくらいかなど、企業からの基本的な情報開示を促し、質の高い労働移動を増やす政策が今後ますます必要になる。

人手不足が深刻化する将来の労働市場においては、希少な労働力を巡る企業間の競争は激しさを増すだろう。適切な労働移動が行われていくなかで、より高い賃金を提示する企業、よりよい労働条件を提示する企業に労働者は集まっていく。市場メカニズムが適切に発露すれば、労働者の賃金上昇率は加速し、労働時間の縮減なども今後さらに進んでいくはずだ。

そうなれば、経営の意識も変わらざるを得ない。これまでは「事業に穴はあけられない」として企業が、従業員に無理な働き方を強いることは決してめずらしいことではなかった。しかし、こうした経営者は労働供給制約時代の経済社会を生き抜くことはできなくなる。これからは、従業員を大切に思いながら優れた経営を行う企業が生き残っていくことになるはずなのである。

企業間の熾烈な競争が生活者の暮らしを豊かにする
サービスに関する業務が機械化・自動化されれば、働き方は大きく変わる。逆にいえば、少数の労働者が高いパフォーマンスを生み出す経済に変わるためには、ビジネスの現場が変わらなければならない。それは同時に、これまでと同じ仕事のやり方にとどまるような企業には、市場からの退出圧力が高まっていくということも意味している。

労働者の心身に負荷の大きい働き方や業務を放置したり、生産性を高めて賃金水準を上げていくような努力に二の足を踏む企業は、労働供給制約を迎える将来の日本の労働市場において、自社に必要な人材を集めることが難しくなるだろう。

一方で、業務プロセスを大きく見直すことで、生産性高く仕事ができる環境を生み出し、それを従業員の報酬として還元しようとする企業には、より良い人材が集まることが期待される。政策面では、後者の企業に人が集まりやすくするための情報開示や生産性向上への支援を充実することが必要だ。

その結果として、熾烈な企業間競争のもとで、従業員によりよい労働環境を提供し、消費者によりよいサービスを提供することができる企業に事業は集約していくことになるだろう。実際に、多くの産業の動きを見ていると、デジタル化の進展とともに、各産業で中核的な役割を担うサービスを提供するプラットフォーマーが生まれつつある。こうした企業が提供する効率的なサービスを社会全体として享受するとともに、プラットフォーマーに対する向き合い方を考えることは、今後避けては通れない課題となっていく。

行政や業界団体からの支援も欠かせない
労働者の業務を自動化するためには、行政や業界団体の関与は欠かせない。運輸業界においては、ドライバーの深刻な人手不足解消のために、近い将来に高速道路での幹線輸送の自動化までこぎつけておく必要がある。そのためには高速道路における自動運転車用の専用レーンの設置やセンサー・カメラの配備、高速通信規格のネットワーク拡充が必要になる。国土交通省や経済産業省は近々センサーの設置法や走行ルールを固める方針だという。公共性の高いインフラを整備していくにあたっては、行政がイニシアティブをとって進めていくことも必要である。

行政に加えて、業界団体が主体となった取り組みも広がっていく必要がある。小売業界では、レジの無人化のためにこれまでのバーコード方式からRFID(Radio Frequency Identification)方式や画像認識方式へ移行するだろう。こうしたなか、コンビニエンスストア5社と経済産業省は2025年までにすべての取り扱い商品にRFIDタグを貼り付けて商品の個別管理を目指す「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定、日本チェーンドラッグストア協会も同省と「ドラッグストアスマート化宣言」を行っている。

建設業界では、建設RXコンソーシアムが業界横断で自動化施工の実現に向けてロボット・IoTアプリ等に関する研究開発を共同で行っている。

機械化・自動化を進展させるにあたっては、業界各社がやみくもに競争するのではなく、協調領域と競争領域とを区別したうえで、協働しながら規格の標準化を行っていくことが必要不可欠である。様々な現場で話を聞いていると、デジタルを使った革新的なサービスが存在しているにもかかわらず、それがなかなか広がっていかない光景を目にすることも多い。特に地方の規模の小さい企業で自動化技術が広まっていく際には、その地域における身近な企業が新しいサービスを実際に活用することで経営を変革している現場を目の当たりにすることがきっかけになることが多々ある。各業界において、初期段階のユースケースを作るために、行政や経済団体が果たすべき役割もあるだろう。

消費者の受容性を高め、デジタル・ロボットフレンドリーな社会を形成する
日本は産業機械などの技術領域にもともと強く、ロボットに関する大衆コンテンツが幅広く普及していることなどから、文化的な観点でいっても諸外国と比べればロボットフレンドリーな社会風土が備わっていると見ることもできる。

AIやロボットが活用される時代においても、多くの領域で対人業務は残っていくだろう。ただし現時点では消費者と直接関わるタスクの中にも機械化・自動化が可能な領域は多く存在していることは見逃せない。働き手が無理なく働ける環境を作るためにも、また一人ひとりが豊かな消費生活を送るためにも、ロボットに寛容な社会を形成していくことは重要な課題になる。

飲食業界においては昨今配膳ロボットの導入が進み始めているが、ロボットがうまく機能するためにはその導線において消費者側がロボットの走行を優先する配慮が求められる。また配膳や下膳にあたっても食器等のピッキングはロボットによる対応が難しいことから、人による協力が必要になるだろう。

消費者側がロボットやデジタル技術に対する寛容度を高めることは、デジタル技術を生活の豊かさにつなげていくために重要だ。個人情報が膨大なデータによって管理されるようになると、基本的人権との兼ね合いも今後大きな問題になるとみられる。

AI時代においては、個人が自身の情報を主体的にコントロールしたうえで自らの意思決定を行うことが、基本的人権として尊重される必要性が高まる。デジタル技術による機械化・自動化の恩恵を労働者と消費者がともに享受するためにも、適切な規制の整備と運用が課題になる。

デジタル技術を活用できる人材の育成
当然ながら、デジタル技術の活用を担う人材の育成というテーマも避けて通れないものになる。まず一義的には、エンジニアやデータサイエンティストなどデジタルに関する知識を備えた人材を育成する必要がある。この点に関して、教育の果たす役割が大きいことは言うまでもないだろう。

一方で、様々な企業実例を見ていてわかるのは、デジタル技術を活用して業務の自動化を図るためのキーパーソンになるのは、必ずしもこういったわかりやすい意味での高度デジタル人材とは限らないということだ。むしろ、タスクの自動化を図るにあたって、自社の様々な業務プロセスに精通した中堅社員がキーパーソンになっているケースは少なくない。実際には、外部のベンダーの力やデジタルスキルを有した中途入社者などの知見を活かしながらも、最終的には自社のことをよく知っている従業員が業務プロセス改革の中心的な存在になりうる。多くの企業の話を聞いていると、そうした人材に共通する要件としては、変化に前向きであるということや、新しいことに積極的に取り組もうという意欲があるという従業員のマインドに関する指摘が多く見受けられた。

さらにビジネスの現場に即して考えてみれば、新しい業務プロセスを現場に落とし込む際に、労働者のリテラシーを高めていくことも必要である。多くの既存のサービスはアプリなどで広く使えるような形になっていることが多く、決して特別なスキルが必要なわけではない。企業の現場では、実地での研修や動画による使い方の指導など実直なトレーニングを根気強く繰り返しながら、身につけてもらうといった形が多く見受けられる。こうしたことに従業員が前向きに取り組めるような仕掛けづくりも必要になる。

自動化にあたっての現実的な課題は山積みで、多くの仕事がニーズを減らしながらも残る
最後に、以上のような観点を総合し、業務の自動化が進みやすい職種とそうでもない職種を考えてみたい。本研究プロジェクトにおいては、各業界の主要企業50社程度にヒアリングを行い、デジタル技術やAI、ロボットの活用によって各職業の業務構造が将来にわたってどのように変わっていくかを聴取している。

現場の最前線でビジネスを行っている方々から、現実問題としてどのような業務を将来的にAIやロボットが行うようになるのか、また将来にわたって人手に頼らざるを得ない領域はどういったところなのかを聞いている。

各業界で機械化・自動化に取り組んでいる企業にヒアリングを行った結果、自動化が進みやすい職種と進みにくい職種をまとめたものが図表4である。将来にわたって、人が担うタスクがどの程度自動化されるかの正確な予想は難しいが、関係者の話をヒアリングしていくと、現状の延長線上で自動化が難しい職種は医療、介護、建設などとなるようだ。

一方で、生産工程、運輸、事務・営業などは自動化の期待が相対的に高かった。自動化の進捗が期待される職種としてまずあげられるのは生産工程関連職種である。製造業については、産業機械の高度化などからこれまでも断続的な生産性向上が行われている。こうした動きは今後も堅調に進んでいくものとみられる。

さらに、自動化の期待が高かった職種としては、運輸関連職種があげられる。同業界では、2024年問題をはじめとする深刻な人手不足に直面するなか、自動運転技術や高速通信技術の進歩によって、幹線輸送が自動化されることへの高い期待が見受けられた。倉庫作業員の賃金水準も上昇するなか、物流倉庫の高度化も今後急速に進んでいくだろう。ただ、市街地における自動運転や客への受け渡しのところの完全無人化は難しく、ラストワンマイルに関しては今後人手が集中する領域になるだろう。

自動化が難しい職種としてあげられるのは医療、介護、建設などである。医療に関して、カルテ等の記録業務や入院患者への説明業務、薬剤や医療材料の運搬作業など雑多な業務の自動化は局所的に進んでいくとみられる。また、バイタルチェックや病床の管理業務なども省人化が進みやすい。

しかし、医療の本来業務である患者の容態の確認や日々のコミュニケーション、医療従事者による手技の部分は、ロボットなどによる代替は難しいという見解がほとんどであった。

介護に関しても、同様に間接業務の自動化から進んでいく。ただし、三大介助業務と言われる食事介助、排泄介助、入浴介助など介護従事者の本来業務は緩やかな省人化が進みつつも、根本的に無人化することは将来においてもあり得ない。

建設関連職種についても同様に管理業務や建機の自動化は進むが、建設作業員が行っている様々な作業を構成する細かなタスクを自動化することはその多くが不可能だというのが概ね一致した見解であった。

(出展:WorksReport2023)


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